ポケットに入れておいた種をまく
男は体をかがめて
ていねいに小さな種をまく
木はぐんぐんと育ち
あっという間に未来の先へと伸びていった
男は木を少しだけ切り取って
静かな手の平で
見えない楽器を彫っていく
彫刻家のように
見えない楽器を彫っていく
誰にも見えたことがない楽器だけれど
誰もが知ってる音がする
そんな楽器をひとりで彫り続け
やがて死んでいった
いつか誰かが
楽器を見つけて
世界の音を鳴らすかもしれない
その音の中から
小さな種がこぼれだす
ガラスの水平線のように美しい種
受け止めずにはいられない
静かな手の平は
いつでも
素朴な太陽の下にある