SORANORINGO

詩と日々。

ポケットに入れておいた種をまく

男は体をかがめて

ていねいに小さな種をまく

木はぐんぐんと育ち

あっという間に未来の先へと伸びていった

 

男は木を少しだけ切り取って

静かな手の平で

見えない楽器を彫っていく

彫刻家のように

見えない楽器を彫っていく

誰にも見えたことがない楽器だけれど

誰もが知ってる音がする

そんな楽器をひとりで彫り続け

やがて死んでいった

 

いつか誰かが

楽器を見つけて

世界の音を鳴らすかもしれない

その音の中から

小さな種がこぼれだす

ガラスの水平線のように美しい種

受け止めずにはいられない

静かな手の平は

いつでも

素朴な太陽の下にある

 

 

 

音を追いかける

まずギターを手にとる

目を閉じてみる

 

「聴こえた?」

 

ううん まだだよ

でもなにかが・・・

なにかがちらっと見えた気がしたよ

 

「どんなもの?」

 

緑色のガラスを透かしたような光だったよ

 

「ああ、きっとそれだよ」

 

うん もう見えないけれど

こんな感じだった

 

ギターを鳴らしてみる

キラキラと光る音がした

音を探しながらつないでいくうちに

緑色の光がはっきりと見えた

 

「今だよ」

 

逃げてしまわないうちに

しっかりとつかまえる

緑色の光は優しく魂と合わさりながら

ギターの音に溶けていった

 

 金色の美しい音がした

 

 

 

空の砂

玄関から出ると

靴底をきしきしと鳴らせるもの

空の砂だ

手で拾い集めて瓶に入れる

グレーがかった薄い水色

空の砂だからって

特別キレイなものでもない

玄関前には空の砂の瓶がずらりと並ぶ


毎日、砂だらけの手の平を見つめながら考える

どうして僕の人生だけ始まらないんだろうかと

 
ある日、作曲家である友人が

なぜだかこの砂を気に入った

少し分けて欲しいと言うので

どっさりとあげた

何せ毎日降り積もるのだ

 

しばらくして友人が砂の瓶を持ってやって来た

普段はとても物静かな彼が興奮している

彼の砂を見てドキリとした

砂はコバルトブルー色に変わっていた

作曲をする度に色が美しくなるらしい

 

僕は思いを巡らせた

彼は素朴で美しい曲を作る人だ

この砂は何に反応しているのだろうか

 

ためしに絵を描いてみる

1枚描いてチラッと砂を見たけれど

色は変わっていないようだった

もう1枚本気になって描いてみた

描いてるうちに不思議な気持ちになった

なんだろう

初めて自分の心と溶け合った気がした

気付くと何時間も夢中になって描いていた

 

出来上がった絵を見て少し驚いた

自分の中のどこにこの絵があったのだろう

傷みで透明になった心が最後に守っていたもの

僕はこの絵を「福音」と名付けたいと思った

砂を見ると、かすかに金色が混ざっていた


僕は考え込んでしまった

この家に空の砂が降り続ける意味 

そしていつか本当の色に戻すことができたなら

この砂は空へと還っていくのかもしれない


グレーがかった空を見ながら

僕はいつしか微笑んでいた

 

 

 

眠れない夜

眠れない夜は

君の中に静かに響く

木星の音を聴くのです

すべての色をつつんだ音が

深く波紋を揺らすのです

 

音は夜をつやめかせ

闇を銀河の毛布に変えました

ふたりで一緒にくるまって

そっと眠りについたのです

 

 

教会

 

痛みを光に変えながら
ひとつひとつ積み上げる

エルダーフラワーの丘で透ける
優しい歌を聴きながら

いつか魂を金色に包む
ガラスの教会が出来上がる