SORANORINGO

詩と日々。

空の砂

玄関から出ると

靴底をきしきしと鳴らせるもの

空の砂だ

手で拾い集めて瓶に入れる

グレーがかった薄い水色

空の砂だからって

特別キレイなものでもない

玄関前には空の砂の瓶がずらりと並ぶ


毎日、砂だらけの手の平を見つめながら考える

どうして僕の人生だけ始まらないんだろうかと

 
ある日、作曲家である友人が

なぜだかこの砂を気に入った

少し分けて欲しいと言うので

どっさりとあげた

何せ毎日降り積もるのだ

 

しばらくして友人が砂の瓶を持ってやって来た

普段はとても物静かな彼が興奮している

彼の砂を見てドキリとした

砂はコバルトブルー色に変わっていた

作曲をする度に色が美しくなるらしい

 

僕は思いを巡らせた

彼は素朴で美しい曲を作る人だ

この砂は何に反応しているのだろうか

 

ためしに絵を描いてみる

1枚描いてチラッと砂を見たけれど

色は変わっていないようだった

もう1枚本気になって描いてみた

描いてるうちに不思議な気持ちになった

なんだろう

初めて自分の心と溶け合った気がした

気付くと何時間も夢中になって描いていた

 

出来上がった絵を見て少し驚いた

自分の中のどこにこの絵があったのだろう

傷みで透明になった心が最後に守っていたもの

僕はこの絵を「福音」と名付けたいと思った

砂を見ると、かすかに金色が混ざっていた


僕は考え込んでしまった

この家に空の砂が降り続ける意味 

そしていつか本当の色に戻すことができたなら

この砂は空へと還っていくのかもしれない


グレーがかった空を見ながら

僕はいつしか微笑んでいた